不器用な総長は元アイドルの姫を一途に愛したい
「……あの、それじゃあ俺はこれで!」
「ああ、気をつけて帰れよ」
「はい! それじゃあまた明日!」

 速水が帰った後、帰るタイミングを失っていた忍は自分はここに居ない方がいいと察し、挨拶もそこそこにそそくさと帰って行った。

「恵那、ほら行くぞ。段ボール結構重いから部屋まで運んでやるよ」

 依然として俯き立ち尽くしたままの恵那に声を掛けると、反応しない彼女の腕を強引に掴んだ斗和は玄関のドアを開けて共に恵那の祖父母宅へ入った。

「ここに置いとくぞ?」

 恵那の祖母に出迎えられて挨拶を交わした斗和は黙ったままの恵那よりも先に彼女の部屋へ入って机の横に段ボールを置いた。

 部屋に入っても尚立ち尽くしたままの恵那に斗和は、

「しっかりしろ、恵那。お前の事だろ?」

 両手で両肩をガシッと掴み、真正面から声を掛ける。

「……そう、だけど……」

 それには流石の恵那も驚き顔は上げたものの何が引っかかるのか、どこか煮え切らない様子だった。

「恵那、お前は何を迷ってるんだ?」

 問い掛けられて真っ先に頭に浮かぶのは、この町に来てから斗和と過ごした日々で、恵那が迷っている原因の一つには斗和の存在が入っていたのだ。

(……もし、アイドル活動を再開するとしたら、私はこの町から出て行かなきゃならない……そしたら、斗和とも、もう会えない……)

 恵那はソロでのアイドル活動ならばこれまでとは違う自分を出せるかもしれないから、やりたい気持ちがあった。

 でも、それを選べばこの町からも斗和からも離れなくてはいけない事を意味しているので、簡単には決断出来なかった。

 それ程までこの町を離れたくない理由、それは――恵那が斗和の事を好きになっていたから。

「……斗和」
「ん?」
「……ありがとう、一人でよく……考えてみる」
「そっか。それじゃ、俺は帰る。じゃあな」
「うん、バイバイ」

 一瞬、『私がこの町から居なくなったら、淋しい?』と聞こうとした恵那だけどそれは出来なくて、そんな恵那の胸の内を知らない斗和はそのまま部屋を出て行った。
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