不器用な総長は元アイドルの姫を一途に愛したい
「恵那さん……」

 今にも泣き出しそうな恵那を前にした忍は彼女の手をそっと取ると、

「あの! なんて言うか斗和さんは優しいけど不器用な人だからその、少しキツい言い方になってしまうけど、恵那さんの事は誰よりも大切に思ってるんです! だからその、俺も上手くは言えないけど、この町を出て行ったら会わないとか言ったとしても、本音を言えば斗和さんは恵那さんと離れたくないと思うだろうし、もう会わないなんて本心じゃないと思う……。素直になれてないだけで、斗和さんも恵那さんと同じように、離れるのを寂しいと思ってるはずなんです!」

 途中から何を言っているのか自分でも分からなくなってきていた忍だったが、要約すると、斗和も恵那と同じ気持ちで離れるのを寂しいと感じているはずだという事、もう会わないなんて本心じゃないという事らしい。

 それを聞いた恵那は、涙を浮かべたままで口元を緩ませると、

「忍くん……ありがとう、私、もう一度きちんと自分で考えて、それから、斗和とも、きちんと話そうと思う」
「はい!」

 くすりと笑みを浮かべながらそう口にしたので、前向きに考えてくれたのだと忍も嬉しそうに微笑んでいた。

 その夜、部屋で一人恵那は考えた。

 今後進みたい、自分の歩むべき道を。

(未だに待っててくれるファンがいるのは嬉しい……。だけど、ソロでやり直して本当の私を見せたら……今のファンがファンでなくなるかもしれない……)

 もし、もう一度芸能界へ戻るのならば、恵那はこれまでの作っていたアイドルとしてのイメージは壊して、今の本当の自分を出すつもりでいる。

 だけどそれは、果たして世間が望む自分の姿なのかを考えると、何だか違う気がした。

(……結局私は、何がしたいんだろ……)

 そして、更に考える。

 誰がどうとかでは無くて、自分はこれからどうしたいのか、海老原 恵那として、どういう人生を生きていきたいのかを。

 考えて、考えて、出した結論、それは――。

「……うん、やっぱりそうしよう。きっとこれが、私にとっての一番なんだ!」

 自分の中で答えが決まったその瞬間、居てもたってもいられなくなった恵那は気付けば部屋を飛び出していた。
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