不器用な総長は元アイドルの姫を一途に愛したい
 そして翌日、斗和に見守られた恵那は速水に電話を掛けて正式に辞める事を伝えると、初めこそ引き止めていた速水も、恵那の揺るぎない決意を知り、それ以上引き止める事はしなかった。

 それから約ひと月後、恵那は一旦東京へと戻り、正式に引退する事をメディアを通して伝え、アイドルCANDY POPのセンター『えなりん』としての活動を終える事となり、全てにカタをつけた恵那の表情は、とても晴れやかなものだった。


「斗和!」
「おー、お帰り」

 東京から戻って来た恵那を迎えに駅へとやって来ていた斗和。

 斗和に迎えられて駅を出た瞬間手を繋がれると、恵那の方が驚いた。

「何だよ?」
「ううん、何でもない」
「そーかよ」

 手を繋がれて嬉しいけど、それを口にすると斗和が照れて手を離してしまうかもしれないと思った恵那は「何でもない」と言って繋がれた手をギュッと握り返した。

 そしてその足でプリュ・フォールのメンバーが集まっていた河原へとやって来た。

 今日はここで正式に斗和と恵那が交際している事が告げられる。

「今日集まってもらったのは、俺から話があるからだ」

 そんな斗和の切り出しから始まった話。

 恵那は斗和の横に立って話の行方を見守った。

「まあ、皆の知ってる通り恵那はアイドルを引退して、正式にこの町に住む事になった。それと、これも知ってる奴が殆どだと思うけど、俺は今、恵那と付き合ってる」

 斗和の言葉通り、メンバーの殆どが二人が交際している事を知っているので大した驚きも無い。

 ただ、改めて『付き合っている』と宣言された恵那はどこか気恥ずかしそうに顔を俯けていた。
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