不器用な総長は元アイドルの姫を一途に愛したい
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 恵那が芸能界を引退してからひと月半、比較的穏やかな日常を送っていたのだけど、突如として平和な町に事件は起こった。

「怖いね、また暴行事件だって……今回の被害者は小学生の男の子だって……」
「何が目的なんだろうな……」
「金品奪うにしても、小学生じゃね……」
「だな。まあ、狙われたのは金持ちの子供かもしれねぇけど、誘拐じゃねぇしな」
「女の人は、暴力振るわれた上に服を脱がされそうになったって聞いたし……」
「どれも同じ犯人にしちゃ、やってる事も狙う人間もバラバラ……とにかく、恵那、くれぐれも一人で出歩くなよ?」
「うん、分かってる……斗和も、気を付けてね? 一番被害が多いのは十代後半の男の子だって言うし……」
「ああ、分かってるよ、心配すんな」

 少し前からこの町や隣町で、突然暴力を振るわれるという事件が多発していた。

 しかも狙われるのも老若男女問わず、時間も場所もバラバラで、人によっては暴力を振るわれるだけでは無く、金品を要求されたり奪われたり、気を失うまで殴られたり、性的暴行を加えられそうになったりと犯行に一貫性が無かった。

 そんな中、

「最近、この近辺や近隣の町で、暴行事件が頻繁してるのは皆も知ってるな? 被害者も老若男女問わずな事から、警察の捜査も難航しているらしい。学校帰りは勿論だが、休日や夜間の外出も気をつけるように。それから……江橋、この後少し話があるから職員室の俺のところまで来い。いいな? それじゃあ今日はここまで」

 平日のある日、帰りのHRが終わる直前、担任から例の事件について気を付けるようにと注意を受けた後で、斗和が呼び出される事に。

「ったく、何なんだよ、面倒だな……恵那、ちょっと行ってくるからここで待ってろ」
「うん」

 呼び出された斗和は恵那に教室で待つよう告げると、一人職員室へ向かって行く。

 残された恵那はクラスメイトたちが帰って行くのを席に着いたまま眺めていた。
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