彼女が服を着替えたら
『‥‥ん、これ美味い。』

「でしょ?槙さんって天才だと思う。
 元々料理好きって言ってたけど
 センスいいよね。」


低温調理した鶏ハムに合わせて白ワインを飲むと、
ハルがもう一口それを美味しそうに頬張る


今まで週末しか一緒にいなかったけど、
平日の夜も過ごすようになってから、
ハルは出勤前にランニングに行っていることを知った


綺麗な体を維持してるから
食事も毎回とはいかないけど、
なるべくヘルシーで美味しいもの
作ってあげたいな‥‥


「‥あのね、私まだまだだし、
 不器用だからゆっくりだけど、
 一緒に楽しくハルと過ごしたいから、
 料理をもっと頑張りたい。
 槙さんにこれからも習ってもいいかな?」


槙さんはいつでもいいって言ってくれるけど、
ハルの友達だから、
やっぱりちゃんと内緒にするんじゃなくて
気持ちを伝えたかった



『いいよ?やりたいことなんだろ?』


「‥うん」



『無理しないって約束するなら
 やりたいことどんどんやるといい。
 ただ、頑張りすぎて余裕なくなるなら
 一旦必ず休憩すること。約束な?』


差し出された小指に、自分の小指を
絡めると、そのままそこにハルが唇を
触れさせた。


私のことよく分かってくれてる。
頑張りすぎるとダメになるってことも‥


「約束する、ありがとう」


もうすぐ今の倉庫内からハルが居なくなる‥‥


付き合ってなくて片思いだったら
こんなに悲しいことはないと思う。


でも帰れる場所が同じ選択を
私の気持ちも確かめながらしてくれた。


それはすごく嬉しいけれど、
やっぱり東井晴臣の存在は大きくて、
毎日あの場所に居ないのをきっと
寂しいって感じると思う


きっと私だけじゃなく、
勤めてる多くの人がハルのこと大好きだから、
それを奪ってしまった私は、
その気持ちに恥ずかしくない人でありたい


ハルがそうしてくれたように‥‥
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