彼女が服を着替えたら

『‥‥帰るなら送るよ。
 今の甲斐田さんを一人に出来ないから。
 嫌じゃなかったら遅らせて欲しい。』



ポンポンともう一度頭に触れた東井さんは、
泣いたまま頷く私をみて少しだけ笑うと、
優しく私の手首を握り駐車場まで
ゆっくりと歩き始めた


振り切ろうと思えば出来た。

離してくださいって言うだけなのに‥‥


でも‥‥今どうしようもなく
一人になりたくない自分がいるのも本音だ。



『乗って。すぐ車温めるから‥』


「‥‥ありがとうございます」


東井さんがなんの車に乗ってるかなんて
気にしたことなかったけど、まさかの
黒い高級車で驚いてしまう


あ‥‥中もすごい綺麗にされてる。

高級車だけに内装もおしゃれで素敵なのに、
綺麗過ぎて乗る時に少し緊張した


私さっき地面に座ってたし、シャッターにも
もたれてしまってたけど
服とか汚れてないだろうか?


そもそも今だって着てる服が
そんなに綺麗な服じゃないからこそ
変なところが気になってしまう


『あのさ、
 そういえば甲斐田さんご飯食べた?』


スマートに運転席に乗り込む東井さんは、
いつの間にかコートを脱いでいて、
品のいいタートルネックの服に
ジャケットを着た姿は仕事中の作業着姿とは
別人のようだった


やっぱり姿勢がいいし、体のラインが
整ってるからスーツ似合いそうだから
なんか勿体無いな‥‥


「まだです‥けど‥でも食欲が」

グゥーー


静かな室内に響く音に、
一気に顔が熱くなりお腹を押さえる


絶対‥‥聞こえたよね‥‥
相当大きかったから‥‥


『クス‥‥ハハッ‥体は正直だな。
 少しでも食べれるなら行かないか?
 知り合いのバーの飯が美味いから』


「でも‥」


『元気ない時は1人でいない方がいい。ね?』
 


「‥‥‥ありがとうございます。」

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