彼女が服を着替えたら

彼女が服を着替えたら


ピンポーン


『大丈夫か?』

「うん、平気‥‥」


慎さんに紹介してもらった知り合いの
スタジオに休日を使ってハルと2人で訪れた


車から降りるのも一苦労になったけど、
大好きな手がいつも私を支えてくれて
安心して出掛けられている。


『お待たせしました、轟です。』


『予約した東井です。』


『お待ちしてました。開けますのでどうぞ』


自動で入り口の鍵が開くと、ハルと
手を繋いで敷地内に行きドアを開けると、
背が高くとても綺麗で
カッコいい女性が出迎えてくれた


話には聞いてたけど、モデルさんみたいに
スタイルがいい人‥‥


ハルもそうだけど、慎さんの周りには
顔面偏差値が高めの人が多い気がする。



『轟です。今日はありがとうございます。
 段差だけ気をつけてお入りください。』


靴を脱ぎ、轟さんの後ろを着いていくと、
左右に部屋がいくつもあり、1と書かれた
部屋に案内された。


『どうぞ。体調が大丈夫ならすぐ
 始めれますがどうですか?』


『奈央どうする?』

「はい、大丈夫なのでお願いします。」


『オッケー。着替え終わったらそこの
 ベルで呼んでください、部屋の外で
 待ってますから。』


轟さんが部屋を出ていくと、
椅子に座らせてもらい一口持ってきていた
お水を飲み深呼吸する


とても綺麗で明るいスタジオ‥‥

背景が真っ白で、床も白くて、
照明が沢山、左右や天井にも吊るされている


持ってきていた服に着替えながら、
ハルが私のお腹をそっと撫でた。


『日にひに大きくなってるな‥‥。
 早く会える日が待ち遠しい。』


ハルの手に自分の手を重ねると
元気よく動き回る赤ちゃんがまるで
答えているかのように反応していた


結婚してハルとの子供を授かり、
出産を来月に控える前に、
槙さんの提案でマタニティフォトを
撮りに来ているのだ


産んでしまったらこの大きなお腹とも
さよならだから、恥ずかしかったけど、
ハルと相談して槙さんの知り合いに
お願いしてもらえた。


槙さん達もウェディングフォトを
ここで撮ったんだって‥‥


お家にお邪魔した時に見せてもらった
ナチュラルな写真が素敵すぎたんだよね‥


「楽しみだね。‥‥よっと‥‥ふぅ、
 1人じゃこういう服着るの久しぶり過ぎて
 思ったより大変だね?ハル、ベル鳴らして
 いいよ?」


白いシャツにデニムパンツを履き、
私は上のシャツを胸下で結びパンパンなお腹
を出したままの状態だ


『失礼します。‥わぁ!素敵ですね。
 すでにいい写真が撮れそう!!
 じゃあ自然な2人が撮りたいので、
 そこに立っていつもみたいに自然に
 お話とかしてください。』


もっと構えたりかしこまったりしながら
静止画像を撮るものだと思っていたのに、
カメラマンさんと馴れ初めや、
近所にある美味しいカフェの話をしながら
どんどんシャッターががきられてゆく。


後ろから抱きしめられたり、
お腹に手を当てて笑ったり、
ポーズを取ることなく一旦休憩をして、
もう一着着替えるとまた撮影がどんどん
進んで行った


2着目はハルはグレーのTシャツに白の
ハーフパンツとラフにして、
私はキャミソールタイプの
シフォンのワンピースを着て撮ることにした。



『ありがとうございました。
 出来上がり次第データをお送りします。
 本当に素敵な2人を撮ることができて
 いい1日でした。次は赤ちゃんと
 一緒にいらしてくださいね。』


「はい、素敵な写真楽しみにしてます。
 ありがとうございます。」


それから1週間後‥‥‥


清香も誘って、槙さんの家でみんなで
集まり、スクリーンに届いたデータをながす
鑑賞会を行うことになった。


『晴臣、いやらしい写真とか
 撮ってないでしょうね?』


『はぁ?そんなの撮っててもここで
 見せるわけないだろ?』




主任がソファに座るハルに後ろから抱きつくと
その腕を軽くツネリ槙さんに助けを求める
主任にみんな笑いが溢れる


そんな写真撮ってませんから‥‥少ししか。


『部屋暗くするぞ。』


槙さんのお料理を頂きながら、
スクリーンの前にみんなで座ると、
データが流れ始め、恥ずかしさと
照れ臭さで時々周りのひやかしの声に
ハルが怒ってたけど、どれも本当に素敵で
撮りに行って本当に良かったと思える


『奈央、あんた本当に綺麗になったね。』

えっ?


『うん、奈央ちゃんと最初に会った頃より
 ほんと綺麗になったね。』


『誰の存在のおかげで
 こんなに綺麗になったの?やっぱり
 晴臣でしょ?』


暗い部屋で隣に座るハルと視線が
合うとなんだか恥ずかしくて前を向いた


初めて出会った時は、髪の毛もボサボサで、
メイクも殆どせず、マスクすればいいやなんて
生きてたけど、ハルと出会っておしゃれして
着替えたりするのが楽しくなった


今思えばあんな私をハルはよく
好きになったものだ‥‥


『『うわぁ!!これいい!!』』


最後に映し出された写真は
2人が思いっきり笑ったアップの写真


私こんなに大笑いできる顔があるんだ‥‥



『奈央‥‥愛してるよ。』



みんながスクリーンに釘付けの中
耳元で囁かれたセリフに小さく返事をして
2人で写真と同じように笑った


誰かのために着替えて変身できる。


ママになってもおばあちゃんになっても
楽しみたい。


この人とずっと一緒に‥‥


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