彼女が服を着替えたら

『初めまして、臣の高校からの親友で
 多田 槙(しん)です。』


「あ‥‥えっと‥東井さんと同じ会社に
 勤めてます甲斐田 奈央といいます。」


『甲斐田 奈央さんね。
 何か嫌いな食べ物ある?』


「い、いえ‥‥なんでも食べれます」

『オッケー、ちょっと待っててね。
 裏に頼んでくるから。』


ふぅ‥‥‥なんか緊張する‥

こういったバーってなんだかんだで
入ったことないし、ましてや
カウンターなんて座ったことない


緊張からか少し暑くなり、
着ていた上着を脱ごうとした。


『甲斐田さんそれ貸して。
 こっちにカバンと一緒に置いとくから』


差し出された手がカバンを
ひょいっと受け取ると
足元にあった荷物を入れるボックスに
カバンを置いてくれ、
上着を横の空いている椅子に
丁寧に折り畳んでかけてくれた。


なんか‥‥東井さんって
もしかしなくても面倒見がすごく
いいような気がする‥‥


二年前に県外から異動してきた東井さんは、
仕事も冷静にこなしてる人だから、
周りからも信頼されてるのは知ってるけど、
こうしたオフの姿はちゃんと見たことなかった


何度か会社の人達と飲みに行っても、
あえて東井さんのことを見ようとは
してなかったからかもしれない


『甲斐田さん目が腫れてるけど
 ここならカウンターで槙しか見てないし
 安心して食べていいよ。
 アイツ女の子にはデリカシーないこと
 言わないやつだから。』


あ‥‥カウンターにしたのって
私の顔を他の人に見られないように?


しかも女の子って‥‥

三十路前の私には不釣り合いな言葉だけど、
久しぶりにそんな扱いされて恥ずかしくなり、
温かいおしぼりを泣き腫らした目に当てた

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