彼女が服を着替えたら
ドアを開けて入ってきた懐かしい声に、
心臓が鷲掴みされたくらいに動いたまま
私はゆっくりと視線を入り口の方へ向けた。


嘘!!
やっぱり‥‥悠介‥‥!?


なんで‥‥?

今‥書き間違えじゃなければ
‥結婚って‥‥聞こえたよね‥‥?


「‥‥ゆ‥すけ」

『えっ?』


少しだけ青ざめたように驚く悠介の視線が
真っ直ぐに届いて、私は咄嗟に目を逸らす


ものすごく上品で綺麗な人の腕が
悠介に絡められているのを見て、
胸が苦しくなると同時に
頭の中がパニックになる。


どうしよう‥‥‥無理、
ここにいたくないのに足が動かない。



『槙、悪い。彼女気分悪いみたいだから
 そろそろ帰るよ、ご馳走様。
 奈央‥‥上着来て外で待ってて。』


『えっ?‥‥ああ、分かった。
 支払いすぐ計算するよ。』


上着を羽織らせてから立ちあがらせてくれた
東井さんに対して、今すぐにでも
涙が溢れそうな私は鞄を抱きしめて
悠介のそばを俯いたまま通り過ぎた
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