振り向けば、キス。

「あれ?」


そこで氷沙は自分の中にいつもある力の違和感を覚えた。いつもなら、自分は道にも迷わない。なぜなら、自分の中に流れている『月読み』の血が、そこがどんな土地かを、ごく自然に教えてくれるからだ。

だから、氷沙にはあまり、『分からない』ことは無かった。分からないのは、自分が『読みたくない』と思っている人の心だけだ。

それ以外のことは、すべて、その地に宿っている精霊や、地縛霊がいたずらに、あるいは親切に教えてくれるからだ。


それが、今は全くそんな力を感じない。

何もわからない。というその初めての感覚を、氷沙は恐ろしいと思った。

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