振り向けば、キス。
「分かりました。お心遣い、感謝します」


そう言って、その場を辞しようとした自分を引き止めたのは、ずっと穏やかな瞳で自分たち兄弟を見ていた、樹和だった。


「楓。この件が終わったあと、正式な辞令を下そうとは思っとるんやけどね。雨宮に対してのけじめもある。月姫への護衛は、違う人間を当てようと思うてる。

そこだけ、胸にしもといてくれるか」


「………」


「ええな、楓」


返事をすることは、出来なかった。それでも、抵抗することも自分には出来なかった。


――もっと強い男に守られていたのなら、幸せな一生を送ることが出来たかもしれんと言うのに。

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