振り向けば、キス。
蘇ってきたのは、自分の目の前で氷沙を掻っ攫っていったあの男の声だった。

自分さえ、もっと強かったら。自分より優れた人間が、氷沙を守れるというのなら。



「――――はい、わかりました」


いつ訪れるのかと怯えていた終末は、案外近くに転がっているものなのだなと、変に冷静な思考回路でそう思った。

唯、心が重かった。


それでも、今は。氷沙を助け出すことが先決だ。それに集中しなくては。


―――まっとり、氷沙。俺が、すぐに助けにいったるからな。


たとえ、それが氷沙に自分がしてやれる最後だとしても。

< 168 / 366 >

この作品をシェア

pagetop