振り向けば、キス。
 事実を淡々と告げただけの自分の言葉に、食って掛かろうとした波樹を押しとどめて高原はしゃべり出した。
 
 その顔は穏やかで、先ほどまでの必死さは立ち消えて、どこか諦めたようだった。やりきれなさを漂わせているその雰囲気に、結局のところ情に甘い波樹は、すっかりほだされてしまったようだ。自分に向けられる非難の色が濃くなってきているのを肌で感じる。

 でも、それでも。自分の選択も言葉も間違っていない自信が、このとき楓にはあった。
 

 自分が護らなければいけない対象は、ただひとつ。氷沙だけだったのだから。


「―――なんで、放火なんてした俺がすんなり釈放されたんだと思います?」
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