振り向けば、キス。
背後からいきなり響いた声に、波樹は反射的に身をすくませた。

それが、祖父のものだと思い当たって、緊張で力が籠ってしまっていた肩から力が抜けていく。


「じいちゃん、なんで」


「――楓の話を聞く限り、雨宮が襲撃される可能性もある。
波樹はここに残って守りを固めて欲しい」


そう言われて、言い返せる言葉を波樹は持っていなかった。

けれど、覚えるのは違和感ばかりだ。

いつも優しいばかりの笑顔を浮かべている祖父が、このとき初めて「雨宮家の党首」に見えた。

< 172 / 366 >

この作品をシェア

pagetop