振り向けば、キス。
――力を解放したらいいのに。――
――そうしたら、この状況から逃げられるよ――
闇なのかから、氷沙の思考を占領するように囁き続けてくる声は、甘い誘惑のようであり、唯一の命綱のようにも思えたが、氷沙にはどうしようもなかった。
力の解放の仕方なんて、あたし知らないのにっ。
月姫の、本当の力、というものが氷沙にはいまいち分かっていなかった。
祖父も、楓も、詳しいことは何一つ教えてくれなかった。
唯、氷沙は何もしらんでええんよ。そう優しいだけの言葉をかけてくれていただけだった。