振り向けば、キス。
「氷沙、助けて……」

波樹の弱弱しい声が聞こえる。

氷沙は、周りにいる化け物が持っている恐ろしい爪や、牙の存在もを超越して、それでも弟のもとへ行きたかった。


「なっちゃん、今行くから」


何故、こんな空間にいきなり波樹が現れたのか。そんなことを思う余裕も、そのときの氷沙にはなかった。

本当の波樹なら、氷沙を危険にさらしてまで自分の身の安全を図るようなことはしないだろう。そのおかしさにも気がつくことができないほど、氷沙は動揺していたし、この空間にいることにつかれきっていた。


この空間に着てから、全く氷沙の「見える」力は作動していなかった。おそらく、この空間を作り出したものの力が、今の氷沙の「月姫」としての能力を軽く凌駕しているのだろう。

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