振り向けば、キス。
――負けるか。


あんな、惨めな思いは、胸が張り裂けそうな思いは、一度で十分だ。

もう二度と、氷沙を危険な目にはあわせない。

たとえ、自分が彼女のそばに入れなかったとしても。
自分の命に代えることになったとしても、だ。


―――ごめんな、氷沙。あと少しだけやから、待っててな。


あの男を倒せるのかどうかなんて、分からない。勝算はなかった。

それでも。氷沙を助け出さなくては、ならない。

それは使命でもあったけれど、あったのだけれど。


―――氷沙。

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