振り向けば、キス。
「なんだよ、それ。なんで、天野と対峙しなきゃいけないんだよ。意味わかんねぇ。じゃあ何で、天野からわざわざ楓を、呼んで一緒に暮らしてきてたんだよ!」
大切な話がある。そうやって、気をもんでいても氷沙が戻って来る訳ではないのだから、私の部屋においで。
そう諭されて、祖父の部屋へとやってきた波樹に、水上は淡々と話し始めたのだ。
いつかは、雨宮は天野を呑み込み、この世界での頂点に君臨する家なのだと。お前は、そのときには新しい当主となって、雨宮を支えていかなければならないのだと。
そんな、実感のまるで沸かない話をする祖父を、波樹は気持ちが悪い、とそう思った。
今まで見たことがないような、果ては今まで自分が接してきた祖父が偽者でもあったかのような、そんな裏切られたかのような気持ち。