振り向けば、キス。

「――あの、髪の長い女の人。
ほら、深い藍の小袖着てはる人、分かる?」


「―――うん」


朱雀が示した方向に、確かに藍の小袖の女性はいた。
雑踏の中にいても、氷沙は誰が『月姫』なのか分かった。


―――似てる。


顔かたちは似ていないが、彼女の身に纏う雰囲気は正に自分と同じものだった。

女性は、ひどく幸せそうな顔で、傍らの背の高い男に寄り添っていた。

彼女の恋人、なのだろうか。

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