振り向けば、キス。
ゆきという名らしいその女性は、まだ10代の半ばほどのあどけなさを持っていた。
嬉しそうに、愛おしそうに、男に寄り添うように歩いている。
男も、彼女を見る目は愛おしそうに、氷沙には思えた。
「如才なかった二代目は、自分の娘の能力を使って、のさばろうとしてん。
ゆきは先読みの能力しか、持ってはおらへんかったけど、それだけで十分やった。
時の朝廷に取り入って、雨宮が今の地位を確立させたんは、このときやね。
せやね……、同時に月姫の不幸が始まったんもこのとき、になるわけやね」
ゆきの綺麗な笑い声が、風に乗って氷沙の耳に届いた。
――なんで、幸せになれなかったんだろう。