振り向けば、キス。


――あぁ、氷沙も、楓もここにいないから。いつも傍に居たあの二人がここに居ないから、それがそもそもおかしいのか。



そんなことを思う。
この闇は、思考を鈍らせる。



そのとき、祖父の声が響いた。


「どこに行くつもりだ。そんな怪我をしたままで」


自分を心配しているその声が、波樹は嫌だった。
祖父の声に、今まで抱いたことがなかった嫌悪感が生まれる。

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