振り向けば、キス。
⑥想いが力に変わる時
なんとなく、足元がゆれていた。
でも本当は揺れていたのは大気であって、氷沙の足ではなかったのだけれど。
ぼんやりと白いもやがかかっているが、そのぶれる足元のさらに下には、楓がいた。
楓と、あの、自分を連れ去った黒い男と、もうひとり。
誰だろうと考えていると、隣で朱雀が囁くように、あれは天野の人間だと教えて寄越す。
――でも、別にそれが誰だっていい。関係ない。
今この瞬間、そんなものすべてがどうでもよくなるような力を氷沙は持っていたのだ。
下に目をやると、そこには目を大きく見開いた楓と、満足そうに笑うあの男の姿。
呆然と、自分を見上げているもう一人の天野がいた。
その天野が呟いた。自分に対して、『月姫』と。