振り向けば、キス。

「楓!」


喉から出たのは、自分のものとは思えないほど、かすれきった高い声。
目の前の光景に、一瞬氷沙の頭は真っ白になった。





**


「あほ、気ぃ付け!」


「――っ悪い、桜」


飛ばされた楓の身体は、しっかりと桜に受け止められた。
防御はまにあわなったが、楓も身をひねることで被害は最小限に食い止めることが、何とかできた。

不思議なことに、身体の痛みをあまり感じなくなってきているから、もしかしたらその所為で大丈夫なだけかもしれないのだけれど。

しかし一応、自分を受け止めてくれた桜の表情を見る限りは、実際的にも大丈夫なようだった。


氷沙は、思うように体を動かせないのか、地上へ降りてくる様子はなかった。その死にそうに青くなっている顔へ、楓は確かな視線を送った。


自分なら、大丈夫だから。とそう心配性で、誰かを失うことをとても恐れている、大切な少女へ向けて。


< 304 / 366 >

この作品をシェア

pagetop