振り向けば、キス。
氷沙は朱雀の背に乗ったまま、遠く下にいる男を見た。楓の答えを聞きたくない。いつもそうやって逃げる。でもその顔を見ていたくはない。
何をするでもなく、ただそこに立っているだけなのに、男からはとてつもないプレッシャーを感じるのだ。
その男が、笑ったように、見えた。
「―――楓!!!」
ふ、と楓が笑った。
そう思った途端、楓は朱雀から飛び降りた。必死に引きとめようとした氷沙の指先が楓の服を掠める。
つかめない、さわれない。