振り向けば、キス。
もう一歩。

踏み出そうとした身体は、それ以上前に進むことは出来なかった。
後から、強い力で抱きとめられる。桜だった。


「離してよ!楓が、楓が居なくなっちゃう!あたしの傍から消えちゃう!!」


「――――黙りや!しゃあないやろっ、楓が決めたんや!俺はせめてあんたぐらい守ったらな、あかん」


氷沙が思わず抵抗をやめたのは、桜の声がとても痛かったからだ。
きっと自分の声もあんな色を出しているのだろう。
その悲痛な叫びは、これから迫り来る未来に、楓がまるでいないことが確定しているかのようで。






「やだよ、楓……」

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