振り向けば、キス。






**


「そういえば、俺はお前の名前も知らんな」


楓は、薄笑いを貼り付けたままたたずんでいる黒の男にそういった。
二人を取り巻くように強い風が吹き荒れているそこは、何かの中心のようだった。


「私は、もはや自分の名前すらも覚えてはいないよ」


もう何年、何百年、こうして生きてきた。ふっと、男は笑う。
< 319 / 366 >

この作品をシェア

pagetop