振り向けば、キス。
先に視線をはずしたのは、「高原」だった。

その子どもの顔に似つかわしくない、笑みを浮かべ、一言。


「―――天野。私の提案を受け入れなかったことを、後悔するぞ」


両者の間を、強い突風が抜ける。秋の木枯らしにも似たそれは、落ち葉を巻き上げ、「高原」の姿を、楓の視界から奪った。


次に、楓の視界が開けたとき、その場に残っていたのは顔面蒼白の状態で崩れ落ちている高原と、おなじく倒れたままの波樹の姿だけで。


「……後悔すんのは、お前の方や。このあほんだら」


本当に面倒くさいことになりそうだ。

楓は男の気配が消えていった、西の空を睨んだ。
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