振り向けば、キス。
楓は、氷沙の身体をきつく抱きしめたまま、その場から飛んだ。
残っていた力を朱雀と桜に向けた。
抵抗がなかった、とは言わない。
自分が絶対的忠誠を誓っているはずの『天野』を攻撃しているのだから。
それでもこのとき、守りたいと思った。
氷沙がこの世から消えてしまうぐらいなら、自分を構成している世界が欠けても言いとさえ、このときは思えたのだ。
突然の攻撃に驚いたのか、二人は追って来なかった。
――悪い。桜、朱雀。
けれど、ずっと逃げ切れるなどとは、思ってはいなかった。
でも今すぐには、天野にはいけない。
山道を下る。勢いのついた身体は何度も転びそうになる。そのたびに腕の中のぬくもりがそれを気力で防いでくれた。
そうだ、氷沙がいる限り、傷つけるわけには、いかない。
自分の首に回る腕が、ぎゅっとすがりつくように力を増した。
大丈夫。そう言う様に、楓は速度を速めた。