振り向けば、キス。

早く、ここに笑顔が戻ってくればいいのにとただただそう思う。
あのきれいな、けれどかなり性格のきつい先輩のことも、その人のことしか見ていないような黒髪の美少女のことも、高原は良くは知らない。
けれど、戻ってきて欲しいと思う。
笑っていて欲しいと思う。幸せでいて欲しいと思う。

自分でさえ、そう願うのだから、波樹の心境なんて推し量りきることは到底出来なかった。

でもせめて、願わくは。
あの3人がただただ笑いあっていて欲しいと思った。

ふぅ、と吐き出した息はやはり白い。
確実に季節はめぐっている。

春になれば、柔らかい奇跡が舞い込めば、いいのに。
そんなむなしくなるような祈りを込めて、高原は一度目を閉じた。


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