振り向けば、キス。
楓は少しだけ、困ったように笑った。それは、何か言いにくいことがあるときの楓の癖だと言うことを、氷沙は知っていた。


「ちょっとだけ、面倒くさいことになってんのかもしれへんわ。あの後、高原に話を聞いたんやけど、このあたりをやっかいな悪鬼がうろついてるみたいやねん。
氷沙が心配するほどのことやないけど、一応気をつけといてな」


「―――それだけ?」


「――波樹の怪我はそいつと遭遇して、ちょっとだけやりあってんよ。そのときに出来たやつやねん。軽い脳震盪や思うよ。そのうち眼ぇ覚ますやろ」


それ以上、詳しいことは話すつもりはないらしい楓に、氷沙は続きを要求する。
自分だけ、蚊帳の外なんて、そんなの嫌だ。
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