振り向けば、キス。
おろかだ。人は。

何十年経とうとも、何百年経とうとも、人の本質は結局のところで変わりはしない。
自分がこの世を、生身の姿で生きていた時代の人間も、同じくしておろかだった。

だが、まだあのころの方が、人は人と寄り添いあって生きていたようにも思える。

それが、自身が存在していた時代への憧憬なのかどうかは分からなかったが。


――おろかな世界を壊して、私は私だけの世界を創る。


考えただけで、腹の底から笑みが沸き起こってくる。幸福感と満足感に男は酔いしれた。

そこは、自分だけの世界だ。

自分と、自分と同じようにこの世から排除されてしまった憐れなものたちのためだけの世界だ。


この世を去り、あの世にもいけず、中途半端な状態で、嘆き彷徨い、恨みを溜めている、愛おしい仲間のための世界を、自分は創るのだ。


――そのためには。


「月姫の強大な魔力が、ほしいのだよ、私は」


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