【改定版】豚小屋

【第11話】

時は午後3時前であった。

ところ変わって、愛知環状鉄道の新豊田駅のすぐ近くにある病院にて…

よしえは、あやみと重朝夫婦の家から出たあと病院に出勤した。

よしえが到着した時、調理場では晩ごはんの仕込みが始まった。

遅れて調理場に入ったよしえは、居合わせた事業主の男性から『遅いぞ!!』とどやされた。

よしえは『すみませんでした。』と一言あやまった後、晩ごはんの仕込みに取りかかった。

事業主の男性は『特別室の(問題の男性患者さん)さんの晩ごはんは作るな。』と言うた後、口笛をふきながら調理場から出た。

よしえと従業員さん3人は、男性経営者をするどい目付きでにらみつけた後、口々に言うた。

「社長はドサイテーね!!」
「ほんと、ドサイテーね!!」
「うちらパート従業員さんたちをグロウしているわね!!」
「全くそのとおりよ!!」
「うちら、今の会社に来て損したわ!!」
「なんでこんな豚小屋へきたのか!!」
「お給料上げる…言うのは口先だけよ!!」
「全くそのとおりよ!!」
「それと、ここの病院の院長《バカ》は何を考えているのかしらねぇ~」
「あの特別室の男性患者《ショボクレじいさん》よね!!」
「おもゆとスープはイヤだと言うけど、自分の体調と向き合わずにわがままばかりこねているのよ!!」
「そうよね~」
「あの男性患者《ショボクレじいさん》は、胃がんにくわえてセンガン(十二指腸)も患っていたよねぇ〜」
「そうみたい…」
「あの男性患者《ショボクレじいさん》、はやく死んでほしいわね〜」
「そのうち死ぬわよ…たしか、センガンについてはバイパス手術だけ受けたと聞いたわよ。」
「なんできちんとした手術を受けなかったのかしら〜」
「あの男性患者《ショボクレじいさん》は、自分の身体にメスを入れるのがイヤなのよ〜」
「なさけないわねぇ〜」
「男性患者《ショボクレじいさん》の奧さまがきついからわがままばかり言うのよ!!娘3人も心の底から冷たいからなおアカンねぇ~」
「そうよね…これでコドクシは確定ね~」
「あと、(どぎついメイクをして出勤している従業員《ポンコツ》)さんもいかんねぇ〜」
「あのコ、きのうに続いて今日も理由なく休んだみたいよ!!」
「また休んだのね!!」
「あのコ、スギヤマ(女子大)卒よね~」
「あのコは、スギヤマでどんな勉強をしていたのかな〜」
「してないわよ~…あのコは、サークルとゴーコンにうつつぬかしていたのよ~」
「ドサイテーねぇ〜」
「小耳に挟んだ話だけどけど…あのコね、よその大学の男子《おとこ》と付き合っていた時にニンシンさわぎを起こしたのよ~」
「サイアクじゃん~」

よしえたちは、従業員《ポンコツ》ひとりと特別室に入院している男性患者《ショボクレじいさん》の悪口をボロクソに言いまくった。

よしえのパート勤務のあがり時間は、イレギュラーであった。

晩ごはんの仕込みから入った場合は、翌朝の朝ごはんの後片付けが終わった頃にあがりの時間を迎える。

1日15~17時間の激務で、激安のお給料であった。

これでは、しゅうさくの育児ができない…

だから、よしえは困っていた。

しかし、あやみからナマクラ呼ばわりされたので理解してもらえなかった。

息子と一緒に過ごす時間がほしい…

アタシは…

家族のために一生懸命になって働いているのに…

妹からとナマクラ呼ばわりされたので理解してもらえない…

つらい…

悲しい…

朝ごはんの後片付けが終わった頃であった。

よしえは、ものすごくつらそうな表情で拳母町《こもろ》にある家に帰宅した。

よしえが家に入った時であった。

家の寝室に、夫が寝ていたふとんが乱れていた…

同時に、夫が連れ込んだ女が着ていた下着が散乱していた。

また同時に、女が使っているブランド物のハンドバッグと大きめのスーツケースが置かれていた。

浴室に夫・ゆういちろうと女が一緒にお風呂に入っていた。

風呂場から、女のつや声が聞こえた。

どうして…

どうしてダンナは…

アタシ以外の女を…

家に入れたのよ…

アタシのことは、もうキライになったのね…

そう思ったよしえは、夫と離婚すると決意した。

そこへ、職場から電話がかかった。

『昼ごはんと晩ごはんの仕込みの人手が足りないから来てくれ…』と電話で言われたよしえは、しぶしぶとした表情で再び病院へ向かった。

よしえが再び病院に着いたときであった。

この時、どぎついメイクをした女性従業員《ポンコツ》を他のパート従業員さんたちが取り囲んでいた。

従業員さんたちは、どぎついメイクをしている従業員《ポンコツ》を口々に攻撃した。

従業員さんたちは、かわるがわるに平手打ちで顔を叩いた後、ロッカーにあったもの投げ合うなどしていじり回した。

どぎついメイクをした従業員《ポンコツ》を追い出した他のパート従業員さんたちは『あ~うらみが晴れたから、楽になったわ~』と言うたあと、仕込みの仕事に取りかかった。

ものすごくつらそうな表情で着替えをすませたよしえは、調理場へ入った。

そしていつも通りに、入院患者さんの昼食づくりに取り組んだ。

昼ごはんの時間になった。

よしえたちは、出来上がった料理を大型の保温ケースに入れて入院病棟《びょうとう》へ運んだ。

この時、よしえはトラブルに巻き込まれた。

よしえは、特別室の男性患者さんの部屋におもゆとスープを差し出した。

その時、男性患者さんから『なんでいらんことした!!』とすごまれた。

すごまれたよしえは、思い切りブチ切れた。

「ふざけるな男性患者《クソジジイ》!!病気と食事の関係を正しく理解しなさいよ!!」
「やかましいだまれ!!」
「だまれはあんたよ!!病院《ここ》がイヤなら家に帰りなさい!!」
「なんだこの野郎!!」
「甘えるな!!」

(パチーン!!)

思い切りブチ切れたよしえは、男性患者さんの顔を平手打ちでたたいた。

男性患者さんは、女々しい声泣きながら言うた。

「ワシに死ねと言うのか…」
「自由と権利ばかりを主張するなど言うたてめえがわがまま言うてどうするのよ!!あしたからあんたにはごはんつくりません!!死にたきゃ死ねばいいのよ!!」

(ドカドカ!!バーン!!)

思い切りブチ切れたよしえは、部屋から出たあとドアをバーンとしめた。

よしえのパート勤務は、7月18日までの間にかけて休みなく続いた。

その間、従業員さんたちがため込んでいたがまんが許容範囲を大きくこえたようだ。

7月18日の夜6時過ぎのことであった。

ところ変わって、小坂本町にあるあやみと重朝夫婦の家にて…

家の食卓には、あやみと義母としゅうさくの3人がいた。

テーブルの上には、あやみのお手製の料理が並べられていた。

重朝《しげとも》と重秀《しげひで》のふたりがまだ帰宅していなかった。

義母がひどく気が立っていた。

しゅうさくが泣きそうな声で『ごはん食べたい。』と言うた。

義母は、あやみにイラついた声で言うた。

「あやみさん!!あんたは何考えているのかしら!!重朝《しげとも》と重秀《しげひで》がまだ帰っていないみたいね!!」
「義母さま!!アタシも困っているのですよ!!」
「いいわけばかりを言わないでよ!!あんたの態度が悪いから重朝《しげとも》と重秀《しげひで》が家《うち》でごはんを食べなくなったのよ!!あやみさん!!すぐに電話しなさい!!」

義母に怒鳴られたあやみは、重秀《しげひで》のケータイに電話をかけた。

重秀《しげひで》は、めいてつ豊田市駅の近くの商店街にあるマージャン店にいた。

重秀《しげひで》と職場の仲間3人と一緒にかけマージャンに夢中になっていたので電話に出ることができなかった。

困ったあやみは、重朝《しげとも》のケータイに電話をかけた。

重朝《しげとも》は、職場の上司のお供で伊良湖岬《いらご》の近くにあるゴルフ場へ行った。

電話がかかってきたとき、重朝《しげとも》はゴルフ場の近くにある割烹旅館《りょかん》にいた。

この時、重朝《しげとも》は社長さんのお酒のお付き合いをしていた。

だから、ケータイが鳴っていたことを知らなかった。

あやみは、割烹旅館《りょかん》に電話をかけた。

旅館の人が電話に出た。

旅館の人は『ご主人さまに折り返し電話をするようにお伝えします…』と言うた。

あやみは、怒った声で『もう主人とはリコンしたので言わないでください!!』と言うて電話を切った。

あやみは、ものすごくつらい表情でつぶやいた。

サイアク…

サイアクだわ…

アタシ…

ダンナとリコンしたい…

この家とリエンしたい…

家庭は、崩壊を起こす一方手前の状態におちいった。
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