ほんの少し思い浮かべただけの未来
 右からキャスターがガラガラガラッと回転する音がした。

「お先に失礼します」

「お疲れ様」

 私は、正面のPCモニターに体を向けたまま、首だけ回して返事をした。

 私と目が合うと、向こうは律儀にペコリと頭を下げた。その顔は遠慮がち。

 そして、そろそろっと退出していった。

 今日頼んだ仕事が済んでるんだから、堂々と帰ってくれていいのに。

 けれど一方で、いかにも新入社員らしいな、とも思う。

 斎藤くんのOJT担当になって半年が経つ。

 仕事は徐々に覚えてくれている。そろそろもう少し専門性の高い仕事を始めてもいい頃合いかもしれない、うん。

 なにしろ、斎藤くんには1日も早く戦力になるように育ってもらわなければいけないのだから。

 そう思った直後に、私自身の囁き声が頭の中で響いた。

『本当に? 焦ってて、的確な判断ができてないんじゃないの?』

 過度なことを要求すれば、控えめな性格の斎藤くんを潰してしまいかねない。

 急がば回れ?

 迷いが生じた。
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