ほんの少し思い浮かべただけの未来

 目を閉じて、天井を仰いだ。

 私が新人だった頃、園田先輩はどうだった? 私にどんな仕事をくれていたっけ……

 そこまで考えて、園田先輩が私のOJTをしてくれていた当時の業務メモを読んでみよう、と思いついた。

 大切に(でもないけれど)保管している使用済みノートの束から、表紙の日付が最も古いものを取り出そうと、屈んで引き出しに手をかけた──

 ギッ!

 たった今退出したはずの隣の席から、椅子が沈み込む音が聞こえてきた。

 斎藤くんが戻ってきた? もしかして忘れもの? だとしても、わざわざ椅子に座るものかな……

 お目当てのノートを発掘して上半身を起こすと、自然と椅子に座っている人物が視界に入ってきた。

 こちらから『どうしたの?』と訊くより早く、向こうから話しかけてきた。

「よっ。今日はまだ残業する?」

 そこに座っていたのは、同期の上林リョウタだった。

 私は第一設計部、リョウタは隣の第二設計部所属だ。入社依頼ずっと同じフロアで働いてきた。

「そこまで緊急の案件でもないからキリがいいところで帰るつもり」

「なら、飯行かない?」

 『ああ、彼もか』と直感した。

 彼の顔を見ただけで把握できてしまった。そのすっきりした表情を見るのは本日2度目だ。

 私はそれでも『いいね』と答えた。
< 2 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop