異世界獣人の国で介護施設を始めます!

 *

 一ヶ月後、――――。

 やっと……やっと、この日がやって来ました。

 新施設視察の日が!

 馬車に揺られながらエンは興奮していた。

 気づけばカルパさんとメアリーさんが新施設へと移動してから、四ヶ月が過ぎていた。

「エン、俺から絶対に離れるなよ」

「分かっています……その台詞何回目ですか?」

 ここ一週間ほど毎日の様に聞かされたレオからの台詞にげんなりしていた。レオはかなり回りを警戒していて、空気がピリピリとしている。顔の眉間には深い皺が出来上がり、全ての者に威嚇している。

「レオは心配しすぎです」

「そんな事は無い。エンは自分の存在がどんなに奇跡か分かっていない」

「奇跡って……」

「奇跡だろう。お前は世界で……いや、俺にとって唯一無二の存在だ。今更お前を他人にくれるつもりも、くれてやるつもりも無い。俺のモノだ」

 うっわーーっ。

 おっも……物凄く重い言葉が返ってきたよ。嬉しい気持ちもあるが、ちょっと引いてしまう。

「あー、レオ……ありがとう。おも……じゃない……気持ちは嬉しいんだけれど、大丈夫です。絶対にレオから離れないから」

 レオの頭を胸に押し当てるように抱きしめながら、背中をポンポンと叩いてやると、レオの体のこわばりが緩む。少しは緊張を緩めてくれたのでは無いだろうか?今度は頭をポンポンと叩いてやると、ゆっくりとレオが顔を上げた。その顔からは眉間の皺が消え、その代わりに蕩けるような甘い笑顔が……。

 このギャップ!

 凄まじい、破壊力!

 ふぐっっ。

 私は顔を真っ赤に染めながら、胸を押さえた。

 こんなかわいいレオの顔を、他の人の前で晒させるわけにはいかない。

 私は自分よりレオが心配なので、レオから絶対に離れないと心の中で誓った。

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