異世界獣人の国で介護施設を始めます!
*
エンは殿下の言動に翻弄されながらも、本日泊まるための宿を探していた。
「エン?何を探している?」
「今日泊まる宿ですけど?」
キョトンとしながら答えると、殿下が動揺を見せた。
「殿下、どうしたんですか?」
「エン、申し訳ないが、宿には泊まれない」
「どうしてですか?このまま帰る感じですか?」
「いや、帰らない。ガンスの作る介護用品が出来上がるまで、王城で生活してもらう」
「…………」
?
今……何と?
「えっと、王城って……お城?この国の一番偉い人が暮らしている……?」
殿下が、物凄く申し訳なさそうな顔をしながら頷いた。
「私はその辺の安い宿で大丈夫なので……」
そこまで言った所で、殿下が言葉を遮った。
「それはダメだ。許可できない」
「何故です?」
「お前は人間なんだぞ。前にも言ったが、伝説の人間を誘拐し、大金を手にしたがるような奴が沢山いるんだ。そんな奴らに捕まってみろ。この国には戻って来れないぞ」
「それは嫌ですけど、だからってお城じゃ無くてもいいんじゃ……?」
「城の警備の方が安全なんだ。エンに何かあってからでは遅いんだ。心配なんだ」
殿下が私の頬に優しく触れてくる。すると二人の視線が、自然と交わった。殿下の熱い瞳の中に、不安と焦り、恐れ、怯え、色々な感情が読み取れて、どうしたら良いのか分からなくなる。
「殿下……」
「エン、分かってくれ」
殿下のただならぬ様子に、これ以上拒否は出来ないのだと悟り、私はコクリと頷くことしか出来なかった。
この時の私は、王城に入るという意味を……本当に意味で理解していなかった。