異世界獣人の国で介護施設を始めます!
先ほどまでのいぶかしむ様な視線は何処へやら、いつの間にかその視線は期待するものへと変わっていた。
うーーん。
それはそれで辛い。
「申し訳ありませんが私は神の声も聞けませんし、導くことも出来ません。奇跡も起こせません。私は普通の一般市民で、平穏に暮らしたいと願っているだけの人間です」
「ほう……奇跡は起こせないと?」
「はい。そのような力はありません」
「だが、ここに来たのには目的があるからだろう?」
目的……。
「はい。私には目的があります」
「それはなんだ?言ってみよ」
「私は認知症で苦しむ獣人や、その家族を救いたい」
「悪魔付きを認知症と言う病だと言っているのは、そなただったな」
「はい。その通りです」
「悪魔付きだけで無く、家族も救うだと?」
「はい。悪魔付き……認知症とは、脳の萎縮により、記憶力が低下してしまう病気です。色々なことを忘れていき、自力で生活することもままならなくなっていきます。忘れるのは物や、出来事だけで無く、家族の顔も忘れてしまうのです。それは家族にとってとても辛いことです。そのため、家族のケアーも大切になります」
「家族のケアーか……」
王がボソリと口を動かした。その意味は私にしか分からなかったのでは無いだろうか。
「王様……先王様はお元気出すよ」
私の言葉に、王がピクリと反応する。
「私は悪魔付きだと言う理由で処刑される獣人達を、一人でも救いたい」
私は王から視線を逸らさずに、声を上げた。そしてダメ押しとばかりに、自分の意思を伝えた。
「私は、王都にも介護施設を作りたいと思っています。そのために力を貸して頂きたいのです」
王は私の力強い声を聞いてから頷いた。
「良いだろう。力を貸そう」
王の瞳が鋭いモノから、柔らかい眼差しへと変わった。それが殿下のような優しい瞳で、二人は親子だなと思った。
王はエンが人間であるという事実が城外に漏れないよう、謁見の間にいた獣人達に箝口令を敷いた。これはエンに対する王の配慮だったようだ。
エンはホッと胸を撫で下ろした。