異世界獣人の国で介護施設を始めます!
異世界で誘拐
*
「レオ、私は一足先に屋敷に戻りますね」
私はそう言ってから、馬車に乗り込んだ。フと外を見ると、レオが泣き出しそうな顔でこちらを見ていた。
「エン様、窓を開けましょうか?」
ティエナにそう声をかけられ、馬車の窓を開けてもらう。するとしょんぼりとしたままのレオが近づいてきた。
そんな顔をしなくても、レオの仕事が終われば屋敷でまたすぐに会えるのに。
「レオ、お仕事頑張って下さい。屋敷でお帰りをお待ちしていますから」
エンはそっと手を伸ばし、レオの頭を撫でながら笑うと、丸い耳がぴょこんと上を向いた。
「ああ、仕事を早く終わりにして屋敷に行くから待っていてくれ。それからこれをエンに持っていてもらいたい」
レオから手渡されたのは、ネックレスだった。それは金の縁取りに、青色の美しい宝石が付いていた。この色は目の前にいる人の色だ。
澄み渡る空色。
「きれい……レオの瞳の色ね」
空色の石を見つめながらボソリと呟くと、レオが頬を染めた。
「俺の色をお前に持っていて欲しい」
その言葉に、トクンッと胸の奥で音がした。封印したはずの思いがわき上がってきてしまう。高鳴る心臓を抑えようとするが、止めることは出来ない。
この人はもう私の中では特別で、この人にとっても自分が特別でありたい。
そんなおこがましい思いが湧き上がる。
「レオ……」
エンはレオにもらったネックレスを付けると、レオの顔を見つめた。
「レオが屋敷に帰ってきたら、話があるのですが良いですか?」
「ん?ああ、分かった」
エンはレオにしばしの別れを告げると、馬車が走り出した。
レオ……。
首にかけられたネックレスを触りながら、空色の美しい瞳を思い出す。それだけで胸が高鳴っていく。
これは身分違いの恋だ。
告げてはならないと思っていた。
でも……。
あふれ出ようとする思いを、留めておくことはもう出来そうにない。
だって私は……。
私はレオが好きだ。
次に会ったときに、この思いを……私の気持ちを伝えようと心に決めた。