【漫画シナリオ】愛を知らないままの君に、心を盗まれるまで。
プロローグ
◯広い屋敷の一室

椿は、簡易的な装いをして、窓の外を眺めていた。

真っ暗な夜の空に、唯一、月明かりだけがポツンと浮かんでいる。

椿(毎日毎日、愛想笑いばかり。本当につまらない)

はぁ、と大きなため息をついて窓辺に頬杖をつく。


椿(誰か、私のことを攫ってくれないかしら……)


そんなことを考えた次の瞬間。

フッ……と月明かりが消えた。どうやら、月に雲がかかってしまったらしい。


月明かりがなくなってしまって、部屋が暗くなる。


椿(あぁ、もうこんな時間。明日は朝から縁談があるのだった……)


寝なければ、と思い、窓から背を向け、ベッドに戻ろうとすると、雲が月を通過したのか、再び月明かりが、窓枠の形になって床に映った。



椿「っ……!」



その瞬間、椿はハッとしたように床にできた影を見つめる。

その場に立っている椿自身の影、そして、窓辺に立つもう一人の人影を___。



虎之介「おっとっと……」



くるりと振り向けば、その人影は、音もなく椿の部屋に降り立つ。



椿「……あなたは誰?」



不思議と怖くはなかった。


豪商の娘である私を攫いに来たのかもしれないし、殺しに来たのかもしれない。


顔も、正体も、目的も……。


何もわからないのに、不思議と私の心臓は、夜の静寂のように平静を保っていた。



虎之介「どーも、あなたの心を盗みに参りました」



彼は、微かにフッと笑ったかと思えば、私の前に片膝をついた。


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