【漫画シナリオ】愛を知らないままの君に、心を盗まれるまで。
5話



◯椿の部屋

要と喧嘩して、仲直り(?)をしてから、無事に家に帰ってきた私たち。

どうやらあれから、さらに大人数が街を暴れて大変なことになったらしい。

あとから駆けつけた警察が取り締まって、無事に丸くおさまったらしく、死亡者は0だと聞いた。


椿(さすがに、疲れちゃった……)


コロンとベッドに横になる椿。

部屋の窓は、いつでも虎之介さんが入ってこられるようにといつも全開にしてある。


椿(今日はさすがに、来ないかもしれないわ)

(昨日、お会いしたものね)


だんだんと、眠気によって目が薄くなっていく椿。


椿(あぁ、眠気が……)


とうとう、目の前は真っ暗になり、椿は眠ってしまっていた。



◯椿が眠ってからすぐ


カタッ……そんな音が聞こえて、椿は目を覚ました。

椿(音……?しかも、窓の方から……?)

寝ぼけ眼を擦って、窓の方に目を向けると、そこには確かに人影。

椿「!?」

椿(もしかして……)

そう思って、ベッドから起き上がる。

椿「虎之介さん……?そこにいらっしゃるのですか?」

そろりそろりと窓の方に近づいていく椿。

しかし、椿の目に映ったのは、予想もしない光景。それに椿は、ハッと目を見開いた。

椿「っ!虎之介さん……!?」

傷だらけで、血を流した虎之介が、窓に寄りかかるようにして立っていたのだ。虎之介からは、荒い息遣いが聞こえて、立っているのも辛そうだった。

椿(どうして……虎之介さんがこんなことに……)

慌てて虎之介に駆け寄って、腕を支えようとする椿。

虎之介「っ……悪い」

虎之介は、椿の手を借りずに自分で立とうとするが、やはりふらふらとしていて立てず、椿に寄りかかってしまう。

椿「虎之介さん、部屋に入ってくださいっ。手当をしなければ……!」

虎之介「い、い……大丈夫だから」

部屋に入るよう促す椿の腕を弱々しい力で押し返す虎之介。
しかし、椿はそんな虎之介につらそうに怒鳴った。

椿「関係ありません!今は自分自身のことを考えてください!」

椿(早く手当をしなければ……!虎之介さんが危ない……っ)


バタンッ、と音がして、虎之介と椿が床に倒れ込む。


椿「ベッドまで踏ん張ってくださいっ」


もう目を閉じて、感覚だけで立つことができている虎之介を、椿は肩を組んで支えていた。

その時だった。


要「すげー音がしたぞ!何事だよ……っ!?」


ガチャ、と部屋の扉が勢いよく開くとともに、要が部屋に入ってきたのだ。


椿(や、やばい……)

椿「よ、要……!あのね、このお方は決して___」


そこまで言いかけた時、椿の肩を借りていたはずの虎之介が素早く後に引き、黒い物体が要のすぐ横を掠った。


要「っ……!?」

あっけに取られる要。

虎之介「フーッ、フーッ……」


見れば、荒い息をした虎之助が、くないを構えて要を警戒するそぶり。

壁には、さきほど虎之介の投げたくないが深く突き刺さっていた。


椿「虎之介さん……っ、落ち着いてください……!」


慌てて虎之介に駆け寄る椿。
しかし、虎之介はまるで椿のことを認識していないかのように、椿の手をふりほどく。


虎之介「離せ……」


ふらりとよろめく虎之介。
その拍子に、傷口が開いてしまったのか、ポタポタと虎之介の血が床にしたたった。

椿「っ!」

目を見開く椿。

虎之介「ちか、づく……な」

そう言うと、力が抜けて膝から崩れ落ちるようにして倒れた虎之介。

椿「虎之介さん……っ!しっかり……!」

椿(どうすればいいの……!?私は、どうすれば……!早くしないと、虎之介さんが……っ!)

(死んじゃう)

はぁ、はぁ……と、呼吸が荒くなっていく椿。

要「椿、しっかりしろ。戸棚に救急箱が入っていただろ。持ってこい」

椿「でも……っ!」

泣きそうな表情で訴えかけるようにそう言った椿の着物の袖を、虎之介が弱々しく掴んでいた。

要「俺は今出血を止めるだけで手一杯だ。心配するな。大丈夫だから。さっさとしろ」

椿「っ……」

自身の帯を使って虎之介の傷口の出血を抑える要。
そして、椿は、ゆっくりと虎之介の手を床に置くと、走って部屋を出て行った。

虎之介と要、2人きりになった部屋で、要は手早く処置を済ませていた。


要(やっぱりこの男が"虎之介"……)

(かなり傷が深い。まさか、昼間に起きたあの争いを食い止めようとしていたのか……?)


険しい表情をした要。


椿「救急箱、見つけた……!」

要「おう」


部屋に駆け込んできた椿は、持っていた箱を要に手渡した。

椿(お願い……虎之介さん……いつものように、笑ってよ……)

椿は、ギュッと目をつむり、祈るように両手を胸の前で握り合わせた。


数十分後___。

椿の部屋から、要の声が聞こえる。

要「処置は済んだ。命に別条はねえから安心しろ」

椿「……」

無言でこくりと頷く椿。その顔は、俯いていてよく見えない。

要(くそ……)

要はギュッと拳を握りしめる。

要(なんでそんな表情(かお)してんだよ……)


気づけばもう、要は部屋にはいなかった。

椿は、ベッドのすぐそばにある椅子に腰掛け、ベッドに横たわる包帯だらけの虎之介を見つめた。

椿(虎之介さん……)

椿が虎之介の手を握るけど、虎之介の手に力は入らない。

椿「ぅっ……ふ、ぅああ……っ」

今まで要がいるからと堪えていた涙がポロポロと椿の目から溢れてくる。


そんな椿の泣き声が、部屋の外の廊下にまで聞こえていた。

そして、椿の部屋の前で立ち尽くす要は、しゃがみ込んで自嘲気味に笑った。


要「はっ」

 「こんなの、俺が付け入る隙なんてねえじゃねーかよ……」


◯要の回想、要が10歳の時、ボロボロの畳の寝室

男「火事だー!」

そんな男の声が遠くから聞こえてくる。

要「……?」

(火事……?)

それに目を覚ました要が、眠そうに目を擦ってあたりを見回すと、とたんにその目は見開かれた。

見れば、あたりは燃えていて、煙で視界が覆われている。
火の手がすぐそばまで迫っていることに、要はあっけに取られていた。


要(なんだ?これ……。火って……なんで……)


動くことができずにいる要。


要(つーか、母さんは……?)


キョロキョロと見回しても、誰もいない。あるのは、ボロボロの畳と、ほぼオレンジに染まる空気。

その時。

ミシミシミシッ……と、天井から音がした。見上げると、炎に包まれた木の天井が崩れ、落ちる。

要(え___)

(やばい、死ぬ___)

両腕でガードし、迫り来る衝撃に備えた要。しかし、来ると思っていた衝撃はいつまで経ってもこなかった。


虎之介「……大丈夫かー?」


固くつむっていた目をうっすらと開けると、目の前には、虎之介の姿があった。

要(誰だ……?)

こくりと頷いた要に、虎之介はフッと笑った。

虎之介「自分の身は、自分で守れ。男の体は、女を守るためにある」

そう言って抱えていた要を地面に降ろして立たせると、虎之介は要の頭にぽんっと手をのせた。

要「……うん」

そう頷いた時。

椿「ねえ、あなた」

路地裏から、声がした。
俯いていた顔をあげ、要が声の主を見つけると、そこには小さな人影が立っていた。

椿「ひとりなんでしょ」

要「え……」

おどおどする要に、少し近づいた小さな椿。

椿「だから、これから行く宛、ないんでしょ」

要「っ……」

ぐ、と唇をかみしめて、涙をいっぱいに貯める要。

そんな要に、椿は顔色ひとつ変えずに言った。

椿「うちにくればいいじゃない。ちょうど今、付き人を雇いたいと思っていたの」


(俺よりもずいぶん歳下の彼女が言った言葉が、俺の人生をいとも簡単に変えてしまった)


椿「もう、隠れても無駄なんだから。かくれんぼが下手なのね!」

要「え……?」

要が横を見ると、さっきまでたしかにいたはずの虎之介の姿はなくなっていて。

かわりに、椿は屋根の上を見つめていた。

つられるように視線をそちらに向ければ、大きな月を背にして、屋根の上に立つ虎之介の姿があった。

そして次の瞬間、音もなく椿の目の前に降り立つ。


虎之介「これはこれは、バレてしまいましたか」

椿「当たり前じゃない。隠れたおつもりで?」


(今では考えられない彼女の気の強さは、弱気だった俺を救うにはじゅうぶんだった)


椿「そんなんじゃ、女性の心も掴めないわよ」

要(うまく忍べるなら女性の心を掴めるのか)

人差し指を立てて虎之介にそんなことを言う椿。

虎之介は、胸に手を当てて微笑んだ。


虎之介「では、あなたの心をいつか盗みに参りましょう。職業柄、盗む、と言った方が妥当なんでね」

椿「えぇ、もちろん。望むところよ」


椿「行きましょ」


そう言って踵を返すと、要の手を取ってスタスタと歩き出した椿。


椿「名前、なんて言うの?」

要「……」

椿「はっきり答えなさいよ、情けないわね」

要「よ……」

椿「よ?」

要「よう……」

絞り出した声は、しっかりと椿の耳に届いたみたいだ。

椿「よう、いい名前持ってるじゃない」

そう言って初めて笑みを見せた椿に、要はあからさまに目を逸らした。

下を向きながら、顔を赤くする要。

胸がドキドキと変な音を立てている。


要(かお、あつい)


椿「私の家は、そこの角を曲がって___」


話し出す椿をよそに、要はさきほどいた場所を振り返った。

しかし、そこに虎之介の姿はなく。

ただの暗い路地裏だった。



要(あとから聞いた話、俺の母親は、俺を殺すために家に火をつけた後、夜逃げしたらしい)

(愛されていないのはわかっていたけど、子供を殺そうとするなんてまあやべえやつなんだなと今になって思う)

(それから、椿と名乗る彼女に連れて行かれた屋敷は、俺の家の何十倍も広くて、綺麗で)

(料理も美味しくて)

(あたたかかった)





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