愛に目覚めた凄腕ドクターは、契約婚では終わらせない
エピローグ
 六月の佳き日。
 柔らかな光が差し込む花いっぱいのチャペルで、たくさんの参列者に見守られながら、和樹と佳菜は結婚式を挙げた。
 宗治は堂々と胸を張り、エスコート役を務めてくれた。
 宗治の腕を離し、和樹の腕に手を添えたときの気持ちは、一生忘れられないだろう。
 佳菜は、オフショルダ―のAラインドレスで挙式に望んだ。佳菜はレンタルでいいと言ったのだが、和樹がどうしてもオーダーメイドがいいと主張し、そうなった。
 前撮りのときには、白無垢に色打掛、淡いパープルのカラードレスも着用した。宗治と和樹に推された形ではあったけれど、いい記念になったと佳菜も思っている。
 チャペルを出ると、たくさんのフラワーシャワーが二人に降り注いできた。
「おめでとう、佳菜!」
 愛理が弾けるような笑顔で迎えてくれる。他にも小児科や同期の看護師が何人も佳菜と和樹を祝福してくれた。
 さすがに招待するのは差し控えたので、鈴奈の姿はない。それでも鈴奈は、昨日の帰りに「おめでとう」と小さな声で言ってくれた。
「和樹くん、佳菜を頼んだよ」
 仲睦まじい二人の姿を眩しそうな顔で見つめながら、宗治が言った。
「はい」
 和樹は力強く頷いた。
「俺は佳菜が結婚して幸せになるまでは死ねないと思っていたんだが……実際にこうして幸せになった姿を見ると、欲が出るな。やっぱりひ孫を見るまでは死ねそうにない」
 宗治の言葉を聞いて、佳菜は口を開き、また閉じて、また開けた。
「……おじいちゃん」
「なんだ?」
「それ……そんなに先の話じゃない、かも……」
「えっ」
 宗治と和樹が同時に驚いた声を上げた。
「佳菜っ……え、それって……」
 和樹が目を見開いて肩を掴んでくる。
「う、うん……昨日、産婦人科で診てもらったら、間違いないって」
「──やった!」
 嬉しさを爆発させるように、和樹が佳菜を抱き上げた。
 いわゆるお姫様抱っこの状態になり、佳菜は慌てて和樹の首につかまった。
「ああ、佳菜、愛してるっ……こんな嬉しいことはないよ」
「か、和樹さん……」
 病院でのクールな和樹しか見たことのない人たちが、目を丸くして驚いている。みんなの視線を一身に浴びて、佳菜は顔を赤くした。
 恥ずかしくて、和樹の首元に顔を埋める。その耳元に、和樹が囁いてくる。
「愛してるよ、佳菜。まるごと全部」
「……私も、愛してます、和樹さん」
 小声で佳菜も自分の思いを告げると、和樹はいっそう強く佳菜の体を抱き締めてきた。
 泣きたくなるほど、幸せだった。
 熱すぎる二人を冷やかす声が湧いたが、佳菜にはもう聞こえなかった。
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