天才冷徹ピアニストと譜めくりすと
「えっと……お時間を頂きありがとうございます。これ、花束を――大ファンです、これからも頑張ってください!」

 頭を下げ、両手で花束を捧げ持つようにすると、

「ふうん、ありがと」

 葉月諒は片手で花束を受け取り、壁際のテーブルにポンと置いた。

「名前は?」

水上奏(みずかみかえで)です」 

「へえ。音楽、やってたの?」

「なぜですか?」

「名前。かなでって、演奏の奏でしょ」

 そっか。それくらい、簡単にわかるよね。

「母が音楽好きで。小さな頃からピアノを始めて、音大を出ました」

「で、その後は?」

「……音楽関係の仕事には就けなくて……」

 要領の悪い私は正社員としての就職もできず、ずっと、事務系の派遣社員として働いている。

「やっぱ、そんなもんだよな。音楽で食っていけるのなんて、特別運のいいごく少数の天才たちだけだ。才能のあるなしは早いうちにわかるんだから、さっさと諦めればいいのに」

 ……けっこうひどいことを言う人だ。
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