天才冷徹ピアニストと譜めくりすと
 葉月諒は性格が悪い、という噂はSNSに上がっていたし、親友のアイも「悪魔みたいなやつだよ!」と言っていた。
 アイは葉月諒が所属しているレーベルのプロデューサーで(そのコネで今日、私は楽屋に入れたのだが)、アルバムを作ろうとするたびに、不快な戦いが巻き起こるのだそうだ。

 ああ、ずっと大好きだったのに、ついに本性を見てしまった。悲しいな……。

 その時、ポロン、とピアノが鳴った。
 控室の中央に練習用のピアノが置いてあり、葉月諒が弾き始めたのだ。

 本番三十分前、軽い指慣らしだろう――そう思ったのだが。
 葉月諒は真剣な表情でカプースチンのトッカティーナを弾いた。
 
 楽屋が葉月諒の音楽に包まれる。歯切れのいい打鍵、時折現れる情熱的な旋律。
 曲も素晴らしいが、演奏もすごい。私は感動した。
 性格が悪くたって、こんなに弾けるピアニストはやはり人類の宝だ。
 
 弾き終わると楽屋にいた全員が拍手をし、葉月諒が笑う――天真爛漫な、いい笑顔――。
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