この執着がやがて愛になる
 その白い首筋に思わず息を呑む彼方に伏見は笑う。彼方はその白い首筋から目を離せない。そんな初心な反応をみせる彼方を放置して、書類に目を通す伏見。彼方はこれは何の拷問なんだと緊張しながら、おとなしくする。
 伏見は彼方のそんな様子に、必死で平静を装っているのがバレバレで笑いたくなる。そうそう、これだ。駒というのはこういう風に扱うものだと伏見は頷いて、彼方の純情を弄ぶ。

「ーーなに、やらしいこと考えとんねん」

「っ……そんな、ことないです」

「せやけど、彼方のここ。さっきからめっちゃ激しくなってんで?」

 そう言って伏見が指摘したのは彼方の心臓部分でーーそれは嘘でも否定できない事実だった。だってこんなにも密着していれば嫌でもわかってしまうのだから。

 それに彼方は顔を真っ赤にして、俯く。そんな様子に伏見は笑うと満足したのか、彼方を解放した。

「ーーと、まあ、こんな風に取引先とかでセクハラされること今後もあるからな。あかんで、ちゃんと拒絶せな」

「は、はい」

 伏見の言葉に彼方は頷く。そんな彼方を膝の上から下ろすと伏見は書類を渡して仕事に戻るよう指示した。

「ーーほな、仕事もどろか」

 そう言って伏見が背を向けるのを見て、彼方は自分の鼓動が激しくなるのがわかった。そして自分が伏見に対して何を思ったのかわからなくて戸惑う。

 ただわかるのはーー。

「あの、伏見さん」

「んー?」

「私、取引先でも伏見さんの指示なら拒絶しません」

「はぁ?せやから、あかんことは……」

「けどっ!」

 彼方は一度深呼吸し、笑顔を向ける。それは純粋で真っ直ぐな、彼方の敬意。

「私は伏見さんに感謝してます。だから……伏見さんの役に立ちたい」

 それは従者としてなのか、異性としてなのかはわからなかった。だけどーー。

「それが私のやりたいことです」

 その笑顔に、伏見はもう何も言えなかった。

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