この執着がやがて愛になる
そんな日々が過ぎていく中で、彼方は毎日傍らで見る伏見の仕事への集中力に驚いた。会社の利益の為に、常に計算して立ち回り、取引先との会合もそつなくこなし、時には狡猾に相手に取引を了承させる。
そしてそれを面倒とも思わず、むしろ楽しんでいるようにすら見えた。
そんな伏見を見て彼方は、この人についてきてよかったと、伏見を誇りに思う。
そんな彼方の思いが裏切られるのは、彼方が初めて他会社へ伏見の代わりに挨拶に行っている日に起きた。
挨拶は無事に終わった。彼方はそのまま直帰でいいと言われていたが、うまく話が進んだことを早く伏見に報告したくて、会社へ戻った。もう定時を過ぎていたが、最上階の明かりがついているのが外からでもわかり、彼方は伏見がまだ仕事をしているのだとわかってうれしくなった。
最上階でエレベーターが開き少し駆け足で、伏見の執務室前まで行く。ノックしようとした時、部屋の中から話し声が聞こえた。
誰か先客がいたのかと思い、その場を離れようとする彼方。しかし、ドンっという大きな音に驚いて、扉にそっと近づき中の様子をうかがった。
「ーーで?なんなん自分。こないなこともできへんの?ほんま使えないわ」
「っ……すみ、ません」
「謝罪なんかいらんねん。結果出せやアホが」
彼方の耳に冷たい声が響く。聞いたこともない伏見の声に体が震えた。その後も泣きながら謝罪をする社員に伏見は、淡々と言葉で追い詰める。まるで本人の口から「辞めます」と言いたくなるように、追い込む姿に、彼方はたとえ相手が伏見でも黙っていられなかった。
「伏見さんっ!!」
勢いよく扉を開ける彼方。そんな彼方の声に、伏見はため息をつきながら顔を上げて、そこで初めて彼方の存在に気づく。
「……なんや、おったんか」