この執着がやがて愛になる
「酷いです!こんなやり方……間違ってます!」

 泣き崩れる社員を庇い、彼方は真っ直ぐに伏見を見る。そして、社員の背中を撫でて、落ち着かせる。

「立てますか?大丈夫ですか?」

「ううっ……」

 社員を扉の外へ送る彼方に伏見は「あーあー」とわかりやすくため息を吐いた。

「何勝手に帰しとんねん」

「あのままじゃ、酷すぎます。見ていられません。伏見さんが、こんな、部下に平気で酷いことを言うような人だとは思いませんでした」

 それは彼方にとっては裏切りだった。信じていた先輩からの仕打ちでどん底に落ちた彼方にとって、そこから掬い上げてくれた伏見は敬う対象で、同時に信頼する人物だった。それが、途端に崩れる。彼方は静かに言葉を紡いで伏見を見た。

「……信じて、いたのに」

 悲痛な顔で、彼方は訴えかけた。それを見て伏見はほくそ笑む。

「勝手に信じて勝手に裏切られたって落ち込んで、全部人のせい。選んだんは自分やん」

「そう、ですけど」

 伏見の言葉に彼方は俯く。確かに選んだのは自分だ。伏見と共に働きたくてここへ来たのも自分だ。その選択をしたこと自体は後悔していない。だけど、その未来がこんなにも酷いものだとは思っていなかった。

「そういうところがあかんねんで」

「……」

 伏見の言葉が胸に突き刺さる。そして同時に思うのはーー。

「私は、もう、あなたを信じられません」

 ハッキリとした拒絶だった。伏見はそんな彼方に鋭い眼差しを向ける。

「ーー言いたいことはそれだけか?」

 冷めた目で見る伏見に一瞬たじろぐがそれでも彼方は引かない。そんな様子に伏見は大きく舌打ちをした。

「なら、ええわ。クビにしたるから。使えん駒はいらん」

 その言葉に彼方は驚くが、伏見は笑顔で手を振る。それは、とてつもなく、嫌な笑み。

 
「ーーほな、さいなら」


 そう言って、伏見は彼方に背を向けて仕事に戻った。その背中に何か言葉をかけようとも、響きそうにない。彼方はぐっと歯を食いしばり、部屋を出て行った。
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