この執着がやがて愛になる
 そう言って伏見は男を殴り飛ばした。そして尻餅をついた男に見下すようにして言う。

「次はないと思ってや」

 そんな伏見の態度に男は顔を青くして、逃げ出した。

「今時しつこいキャッチとかアホやん」

 そう吐き捨てて、伏見は彼方に向き直る。

「ーーほんまにアホやわ、自分」

 そう言って伏見は彼方を睨みつける。その視線が痛くて、それでもどこか心配してくれているように見えて、彼方は何も言えなくなる。そんな彼方に伏見は静かに尋ねる。

「なんでついていこうとした?」

 その質問に彼方はグッと唇を噛む。しかし答えないわけにはいかないと口を開く。

「……必要と、されたので」

 そう答えるのが精一杯だった。その言葉に伏見はため息を吐くと、そのまま彼方の手を取り歩き出した。彼方は慌てるが、伏見は振り返らない。掴まれる手の温度だけが、やけにリアルだった。


***


「入れ」

 そう言って伏見が彼方を連れてきた場所は、彼の家だった。会社から近い、高層マンションの最上階のワンフロア全部が伏見の家だ。

 まさか部屋に招かれるとは思っていなかったので戸惑う彼方に、伏見は不機嫌を隠さずに言う。

「ええかげん腹減って死にそうやねん!話なら飯食ってからにしろや!」

 そんな伏見の言葉に彼方は拍子抜けする。そして、その勢いに負けてそのまま部屋に上がるとリビングに通され、ダイニングテーブルに座らされた。目の前に出される食事はおにぎり。それも手作りだ。伏見が握ったのだろうか。彼方は目の前の伏見が「いただきます」といって食べ始めるのを見ると、自分も同じようにして食べる。

 口に入る、食べ物。伏見の用意したそれは、紛れもなく彼が彼方を思って用意した物で。あんな風に酷いことをする人間なのに、とか。自分も失礼なことを言ったよな、とか。いろいろな感情が混ざり、思わず泣きそうになる。
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