この執着がやがて愛になる
 伏見は一人呟く。今までこんなことはなかったし、誰かに対してこんな風に思うこともなかったはずだ。なのに、どうして彼方だけはこんなにも気になってしまうのか。そんなの答えはわかりきっているのに、あえて、伏見は気づかないふりをする。

 伏見はため息を吐くと仕事に戻ることにした。しかし集中できない。伏見は再びため息を吐くと椅子から立ち上がり、執務室を出た。そのまま廊下を歩きエレベーターホールに向かう。

「あー……くそ」

 伏見は悪態をつく。彼方のことを頭から追い出そうとするほど、彼女のことが頭から離れなくなっていた。その理由をわかっているから、伏見は考えないようにしていた。

 しかし考えるなと思えば思うほど考えてしまうもので、結局いい解決策は出ないまま思考の堂々巡りを繰り返すだけだった。そんな時だ。突然背後から肩を叩かれる。この最上階で副社長である伏見の肩を気安く叩く人物など、一人しかいない。

「よ、どうした浮かないオーラだして」

 ニカッと人のいい笑顔をみせるのは、この企業のトップである社長。そして、伏見の友人。この会社は二人で立ち上げたものであり、二人は仲はいいが、仕事中ではしっかりと立場を考えて会話していた。少なくとも伏見は。社長の方は、あまり気にせず気安く絡んでくる。

「オーラてわかるもんなんです?」

「常人には理解できないだろうが、俺とおまえの仲なら余裕だな」

 社長は自信満々に言う。しかし伏見はため息を吐いて「そうですか」と答えるだけだった。
 そんな伏見を、社長は少し揶揄うことにした。

「なんだよ?悩み事か?」

「……まぁそうですね」

 伏見にしては珍しく素直に認めると、社長はにやりと笑みを浮かべる。そして手に持っていた書類の束で伏見の頭を軽く叩いた。

「ふーん?お前がなぁ〜。どれ、話してみろよ」
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