この執着がやがて愛になる
「ああもう!うっさいねん!!」

 伏見は顔を真っ赤にして叫んだ。その反応に社長はますます笑い転げる。そんな社長を伏見は恨めしそうに睨みつけた。

 そんなやり取りをしていると、エレベーターホールの方から声がかかる。そこには彼方が立っていた。彼方は二人を見ると駆け寄ってきて挨拶をする。

「お疲れ様です」

「お疲れさん」

「おう、お疲れ」

 挨拶を返すと彼方は少し不思議そうな顔をする。それは伏見の顔がほんのり赤かったからだ。

「伏見さん風邪ですか?お顔が赤いような……」

「ちゃう、なんでもないねん」

 バツが悪そうに言う伏見に社長はニヤニヤしたままで、彼方は二人をみて首を傾げるが、すぐに仕事に戻る。

「伏見さんこの書類にサインお願いします。それと、経費の処理に……」

「わかった。あとで見とくわ」

 伏見は彼方から書類を受けとると確認する。その間も社長はまだ笑っていた。彼方がまた別の階に去っていくと、社長は話の続きをする。

「で?どうするんだ?」

「何がや」

「彼方のことだよ。俺があいつを補佐につけたいって言ったことだ」

「……せやから、あかんて」

 伏見は拗ねたような口調で答えると、社長は再び笑う。

「くくっ……おまえ、ほんと面白いよな。でもおまえに気に入られたあの子も大変だな」

「何がや」

「だって、おまえ嫉妬深いし独占欲強すぎるだろ。重すぎて引かれないか俺は心配だねぇ」

 そんな風に若干茶化しつつも憐れむ社長に鼻で笑って伏見は言い返す。

「重すぎるくらいがちょうどええんや。彼方は僕に必要とされたいねん。それがあの子の喜びやから」

 伏見の言葉に社長は「あ、そう」と苦笑しつつ返すだけだった。そして、伏見の肩に手を置いて言う。

「まあ、頑張れよ」

「言われんでもわかっとるわ」


 そんなやりとりをして二人ともその場を後にしたのだった。


 伏見は、社長とのやり取りで彼方を自分のものにしようと決めた。しかしその前にやるべきことがある。それは、彼方に自覚させることだ。
 自分がどれだけ特別な存在か。そして、伏見がどれだけ彼方を必要としているか。

「せやから、覚悟しとき」

 伏見はそう言って笑うのだった。
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