線香花火が落ちたそのとき
 「俺さ……好きな人いるんだよね」

 突然、幼馴染の優太(ゆうた)がそう言った。
 幼馴染の恋愛話なんて聞きたくない。何となく暑いからという理由で線香花火をしているけれど、私にとって線香花火は大好きだし。

 「へぇー、そっか」

 「何だよ、興味なし? 恋バナなんてしたことなかったのに」

 「恋バナとか言わないで。優太の好きな人とか興味ない」

 「相変わらず(はんな)は辛辣だなぁ」

 私はわざとらしくはぁ、とため息を吐く。
 優太は明るくて人気者。小学校、中学校と確かに女子からモテていたと思う。告白される度に断っていたらしいけれど。

 幼馴染の恋なんて聞きたくない。私には関係ないことだし、恋愛なんてさっぱり分からないから。

 「花は好きな奴とかいないの?」

 「いるわけないでしょ」

 そう答えると、優太の線香花火がぱたっ、と地面に落ちた。
 その線香花火を見ると何だか胸がぎゅーっと強く締め付けられる。

 「優太の線香花火落ちるの早いね」

 「……あぁ、そうだな。花のはまだ?」

 「うん、何か全然落ちない。珍しいね」

 何だかぎこちない会話になってしまう。
 私はまた線香花火に視線を戻した。

 「もう中学終わっちゃうね」

 「な、早かったなー」

 「受験とかどうしよ。全く考えてないよ」

 「俺も」

 もしこのまま中学校が終わって、優太と高校が別々になったら、もう話せなくなってしまうのだろうか。

 恋人なんかじゃない、ただの幼馴染だから会う機会もだんだん減るのだろう。
 そう考えると、少しさみしい気もした。

 「……この線香花火見ると、小さい頃思い出すな」

 「え? いつの話?」

 「俺と花で、どっちが線香花火長く続くかっていうゲームしたとき。先に落ちちゃったほうが負け」

 「あー、そんなのあったね」

 優太と小さい頃からずっと、こうやって線香花火をやっていた。
 華やかな打ち上げ花火よりも、私たちはこういう小さい花火が好きだから。

 「あのときは俺が勝ったんだよな」

 「確かに私負けたかも。五歳くらいのときだから、悔しくて大泣きしたの覚えてる」

 「はは、花は負けず嫌いだったもんなぁ」

 ――優太ともっとこうやって、線香花火をしていたい。
 このまま夏が終わるなんて嫌だ。この気持ちはなんていうのだろう。

 「……なぁ、花」

 「ん? どうしたの?」

 「――俺、花のことが好き」 

 その瞬間、私が持っていた線香花火がぱたっと地面に落ちた。
 その花火は決して小さいけれど、何よりも華やかで美しかった。

 胸が高鳴って、頭の中まで鼓動が伝わってくる。
 こんなにもドキドキしたことない気がする。

 「……昔から好きだった。明るくていつも笑顔の花のこと。高校に行っても離れたくない」

 ――あぁ、そっか。この気持ちはきっと……。

 恋、というものだろう。

 「だから、俺と付き合ってください」 

 差し出された優太の手を、強く握る。
 それから私は、優太のことをぎゅーっと抱きしめた。

 「私も好きです」

 ――たとえ小さい線香花火でも、好きな人に対するこの「好き」という気持ちは、打ち上げ花火くらい胸いっぱいに広がっている。
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